遠野物語について

 遠野物語とは、「物語なのか」という疑問について考えてみた。

 私の中で遠野物語とは「科学やルールがまだ未発達だった時代の、不条理なことに対する折り合いのつけ方」を記した物ではなかろうかと思う。物語に出てくる「妖怪や神の存在」も「不条理なことにたいする折り合いのつけ方」そのものであると感じる。当時を生きる人の優しい智恵なのである。

 遠野物語の内容としては、現代で言えばゴシップである。不条理な出来事、平たく言えば「人殺し、盗み、放火、神隠し」などを聞きづてに記していると感じる。ただ、現代のゴシップと明らかに違うのは、誰かを責めるとか、裁くとか、書き手側の倫理観の押しつけがない「不思議な事があるものだな」というニュアンスで描かれているところである。そういう意味で、事実をもとに書いていたとしても、読み手に感じ方を委ねているので、「遠野物語」はただのゴシップではなく、物語といえるのではないだろうか。読んだ人、聞いた人の感じ方次第。絵画の鑑賞に近いのかもしれない。なんとも隠微な雰囲気を醸し出している。